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2016年8月26日 (金)

二つの玉音放送 その4

人生は冥土までの暇潰し
 
 
■立憲政治とデモクラシー
小室直樹が著した『昭和天皇の悲劇』に、「昭和天皇は、デモクラシー断念のかわりに戦争を選びたもうた」と題する小節がある。ここで、〝戦争を選びたもうた〟という文言に、目が点になった読者も多かったはずだ。よって、小室の云わんとすることを理解していただく意味で、同小節の全文を以下に引用しておこう。

昭和天皇はデモクラシー断念のかわりに戦争を選びたもうた
その顕著な一例こそが、天皇の戦争責任論である。
立憲の常道を守ることは、デモクラシーが確立されるための必要条件である。立憲の常道なくしてデモクラシーなし。
デモクラシーを欲するならば、何が何でも(死んでも)、立憲の常道は守られなければならない。
天皇は、輔弼の臣が一致して上奏したことは、たとえ意にそわぬことでも、そのまま許可しなければならない。
これぞ、立憲の常道のエッセンス。
そして、これが確立されないことには、デモクラシーは断じてあり得ないのである。
いかにも、戦前、戦中の日本にデモクラシーはなかった。
が、もし、デモクラシーを望むなら、死んでも立憲の常道は守るゾ。
この決意とその実行なくしてデモクラシーはあり得ないのである。
大東亜戦争開戦にあたっては、内閣も統帥部も、一致して対米英開戦を上奏した。
この上奏を却下すれば、勿論、内閣は総辞職のほかはない。
ことによれば、対米英開戦は避け得たかもしれない。
それとともに、日本の立憲政治はけしとんでしまう。
デモクラシーヘの道は、絶望となる。
雲山万里の彼方へ去ってしまう。
昭和十六年(一九四一年)に目前にあったのは、戦争とデモクラシー(への可能性)か、平和と専政(立憲政の蹂躙、デモクラシーの断念)か。
実に、この間の選択であった。
貴方だったら、どちらを選ぶ。
戦争は、あるいは死を意味するかもしれない。
しかし、死をも覚悟することなしに、真の自由が得られることはない。
これ世界史の鉄則である。
勿論、生命を賭しただけで自由が得られるものではない。自由への途は遠く、かつけわしい。前途に横たわる困難は多い。
しかも、生命を賭すことなしに、自由とデモクラシーが得られることは絶対にあり得ない。
マッカーサー・コムプレクスによって、この世界の鉄則は、日本人の脳裡から去ってしまった。いや、はじめから入ろうとしなかったのであった。
もし、この世界史の鉄則を知悉して(知り尽くして)いたならば、昭和天皇に戦争責任を問うなどという発想が、そもそも出て来ようがないのである。
上に論じたように、昭和天皇の戦争責任論とデモクラシー支持とは、全く両立し得ない立場である。
昭和天皇は、デモクラシーの断念のかわりに戦争を選びもうたのである。
自由を求めデモクラシーを欣求する(ひたすら願う)者は、昭和天皇を賛美する百千の理由を見出しても、戦争責任を問う一つの理由をも見出し得ないのである。
しかしながら、この事実を理解できる日本人は今や日本にはいない。そして、この無理解こそが昭和天皇の最大の悲劇につながる。
では、なぜ日本人はこの事実を認識できないのか。それはいつからはじまったのかを次に述べよう。

『昭和天皇の悲劇』p.48~51


最終行の「なぜ日本人はこの事実を認識できないのか」という小室の指摘は、次回取り上げる予定の「■二・二六事件に見る日本の原理」に、出来る範囲で答えを示しておくので、次回までお待ちいただきたい。

ところで、小室の云う「生命を賭すことなしに、自由とデモクラシーが得られることは絶対にあり得ない」、これを「言論の自由」という観点から捉えてみると、案外理解しやすいかもしれない。そこで、言論の自由についての私見を【追補】で簡単に述べておいたので、一読戴けたら幸いである。

次回は社会科学の観点から捉えた、日本人以外の人たちには摩訶不思議に映るであろう、二・二六事件について取り上げることにする。

【追補】 言論の自由
小室直樹は、「デモクラシーは命を懸けて獲得するもの」と述べた。それは、権力と対峙する時の姿勢、すなわち「言論の自由を死守する」ことにも繋がるのであり、そのため、時には死を覚悟する必要もある。幸い、還暦まで生きてきたのでもう十分であり、子どもたちも成人式を終えて親としての務めも果たし終えている身として、これからは次の世代のため、頑固親父の遺言を書き連ねていく所存。

小室直樹も『昭和天皇の悲劇』の小節「死を恐れる者に言論の自由を語る資格はない」(p.26~28)で、言論の自由についての私見を展開しているので、関心のある読者は同書を図書館などで探し、一読していただけたらと思う(残念乍ら、同書は既に絶版のため)。

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